19.風待月の一夜

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町は祇園祭の宵々山で賑わっていると聞いた。 明日は宵山、そしてあさってが前祭(さきまつり)山鉾巡行(やまほこじゅんこう)神幸祭(しんこうさい)だ。 たまたま目に入った桶に水を汲み、庭の草花に柄杓で水をやる。 土に水が染み込んでいく。 流線形の葉から、夏の雫がスルリと落ちて。 花びらの露が日光に反射してキラキラと輝いた。 町とは真逆で、隊士が少ない屯所はとても静か。 静かすぎて落ち着かない。 緊張感に拍車をかける。 雲の切れ間から月が顔を出した。 いつものように縁側に座り、思案をめぐらせる。 何も知らないのだから、いいアイディアなんか浮かばないのは当然で。 気がかりが多すぎて、足をバタバタさせた。 新選組のみんなが屈するわけない、大丈夫。 きっとそうなのだ。 うん、うん、と頷いて、自分の心に言い聞かせる。 こちらへ近づいてくる足音に顔を向けた。 「山南さん」 「かれん君か」 「山南さん、大坂での左腕の怪我はもう大丈夫なんですか?」 「あ、ああ…すっかりね。君にも心配をかけてすまなかったね」 「いえ、大丈夫ならよかったです」 ニコッと笑って返した。 笑えるってことは、わたし、ちょっとだけは余裕があるみたいだ。 思い切って聞いてみる?     
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