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町は祇園祭の宵々山で賑わっていると聞いた。
明日は宵山、そしてあさってが前祭の山鉾巡行と神幸祭だ。
たまたま目に入った桶に水を汲み、庭の草花に柄杓で水をやる。
土に水が染み込んでいく。
流線形の葉から、夏の雫がスルリと落ちて。
花びらの露が日光に反射してキラキラと輝いた。
町とは真逆で、隊士が少ない屯所はとても静か。
静かすぎて落ち着かない。
緊張感に拍車をかける。
雲の切れ間から月が顔を出した。
いつものように縁側に座り、思案をめぐらせる。
何も知らないのだから、いいアイディアなんか浮かばないのは当然で。
気がかりが多すぎて、足をバタバタさせた。
新選組のみんなが屈するわけない、大丈夫。
きっとそうなのだ。
うん、うん、と頷いて、自分の心に言い聞かせる。
こちらへ近づいてくる足音に顔を向けた。
「山南さん」
「かれん君か」
「山南さん、大坂での左腕の怪我はもう大丈夫なんですか?」
「あ、ああ…すっかりね。君にも心配をかけてすまなかったね」
「いえ、大丈夫ならよかったです」
ニコッと笑って返した。
笑えるってことは、わたし、ちょっとだけは余裕があるみたいだ。
思い切って聞いてみる?
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