19.風待月の一夜

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「ただの噂でしょう」 「町の人はそう思ってるみたいだけど、わたしにはそうは思えません」 「思い過ごしだよ。勘繰るのはよしなさい」 「噂が立つってことはそれなりの理由があるか、何か意図があると思うんです」 ずっと知りたかったことが、どんどん言葉になって出てくる。 それでもなお、笑ってかわす山南さん。 わたしの質問攻撃にも言葉を濁し、肝心なことは教えてくれない。 「噂が本当なら、長州にはそこまで危険を冒して得になることがあるんですか?」 「鋭い質問だね…」 「それに…」 昼間、耳にした声。 実際に自分の目で見たわけじゃないけど、確かな現実であろう出来事を口にするのをためらう。 「うん?」 「土方さんが…」 「どうしたんだい?」 「昼間、誰かを拷問してた…と思う」 「見たのか?!」 「見てないけど、声がしたから…」 「そうか…」 いつも冷静で穏やかな山南さんが声を大にして、表情を曇らせた。 ただごとではない夜になるんじゃないか。 何か、歴史に残るほどの大きな事件。 「あの人、長州と関係あるんでしょう?重大な何かを握ってるから、ああしたんじゃないですか?」 腕を組み、難しい顔をしたまま耳を傾ける。 時に目を閉じ、思索にふける。 瞼を開くと、いつもよりも鋭い視線。     
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