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「ただの噂でしょう」
「町の人はそう思ってるみたいだけど、わたしにはそうは思えません」
「思い過ごしだよ。勘繰るのはよしなさい」
「噂が立つってことはそれなりの理由があるか、何か意図があると思うんです」
ずっと知りたかったことが、どんどん言葉になって出てくる。
それでもなお、笑ってかわす山南さん。
わたしの質問攻撃にも言葉を濁し、肝心なことは教えてくれない。
「噂が本当なら、長州にはそこまで危険を冒して得になることがあるんですか?」
「鋭い質問だね…」
「それに…」
昼間、耳にした声。
実際に自分の目で見たわけじゃないけど、確かな現実であろう出来事を口にするのをためらう。
「うん?」
「土方さんが…」
「どうしたんだい?」
「昼間、誰かを拷問してた…と思う」
「見たのか?!」
「見てないけど、声がしたから…」
「そうか…」
いつも冷静で穏やかな山南さんが声を大にして、表情を曇らせた。
ただごとではない夜になるんじゃないか。
何か、歴史に残るほどの大きな事件。
「あの人、長州と関係あるんでしょう?重大な何かを握ってるから、ああしたんじゃないですか?」
腕を組み、難しい顔をしたまま耳を傾ける。
時に目を閉じ、思索にふける。
瞼を開くと、いつもよりも鋭い視線。
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