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「まあまあ。何か事情もありそうだし、近藤さんに聞いてからでも…」
「駄目だ。置いておけるか。何か起きてからじゃ遅せぇんだよ」
重苦しい空気が流れる。
ダメだ。
やっぱり話が通じる相手じゃない。
世間も現実も厳しい。
涙を拭いて、よろよろと立ち上がる。
「…分かりました。ご迷惑おかけしました。助けていただいてありがとうございます」
「待ちなさい。君は怪我をしているだろう。もう遅いし、せめて今晩は休んで行きなさい。行くあてもないのにどうするんだ」
「何とかします。大変お世話になりました」
気を遣ってくれた山南さんの言葉を断り、足を引きずりながら出ていく。
あ、草履片方なくしたんだっけ。
右手にバッグ、左手に片草履、裸足で外に出た。
「真っ暗…なんですけど」
黄昏時。
『秋は夕暮れ』とは清少納言はよく言ったものだ。
鮮やかで美しすぎる夕焼けの空が夕闇に変わっていく途中。
切ないほどに身に沁みる。
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