5.一寸先は紅のくちづけ

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「おい…」 ぼそりと低い声の主に肩を叩かれた。 「はい…何でしょう?」 「お、ハジメ」 「…あれ、干したのはあんたか?」 「洗濯物?そうですけど」 「…もっとこう、布の端から端までシワのないようピンと伸ばせ」 「あれじゃダメですか?」 「…乙」 「おつ?お疲れ…さま?」 「あれでは早く乾かん。日光と風が通るよう、今少し間隔を空けてくれ」 「はぁ…直しますね」 「いや…俺が。手本にしてくれ…」 庭に直行、黙々と手際よく干し直す。 丁寧に干したつもりだったんだけどな。 アイロンらしきものってないの? 「あいつ、洗濯にはかなりのこだわりがあるんだ。意外だろ?」 「これはアイロン要らずね」 「アイロン?」 カリスマ主婦も驚きの技に感心し見入る。 ああ… 家族も友達も元気かな。 こんな奇怪な状況でも生きてるよ、って。 せめて心配しないで、とだけでも伝えたい。
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