5.一寸先は紅のくちづけ

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「今から町に出掛けるところでね」 「そ、そうですか。今日は非番ですか?」 「そうなんだ。良ければ一緒に行かないか?」 「京の町を案内してあげるよ」 「ぜひ!まだよく分からなくて」 「今から出れる?」 「あ…わたし、草履を片方なくしてしまって。どうしよう…」 「おい、これ履いて行け」 タイミングよく庭に土方さんが現れ、踏み石の上にかわいらしい草履が置かれた。 「歳、いつの間に」 「草履がねぇんじゃ、どこにも行けねぇだろ」 ぶっきらぼうな口調。 もしかして照れてる? 局長のほうを向いたままで、目を合わせてくれない。 「わぁ…」 紅緋色の鼻緒、白梅の柄。 自分好みの草履に胸がときめく。 「いいんですか?」 「履いてみろよ」 草履を履いて、ぴょんと跳びはね庭に出る。
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