6.月のない夜には君の名を

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トイレを出ると、知らない女の人とすれ違った。 髪が少し乱れてる。 気だるい雰囲気、エロく肌けたお姉さん。 芹沢さんたちが呼んだ遊女さんだ。 わたしのことを横目でなめるように見る。 何よ。 何か、ヤな感じ。 ガタッ 部屋に戻ろうと階段まで来たとき、物音がした。 何…? やだ… ホントやめてよ… 次の瞬間。 何かにぶつかったような、さらに大きな物音。 空耳じゃない。 雨音の中でもはっきりと男の人の声を聞いた。 悲鳴…?! 「何なの…?泥棒?」 ただならぬ雰囲気。 階段脇の戸の向こうで、確実に何かが起きてる。 心臓がドクンドクンと激しく高鳴る。 少しだけ、覗いてみる…? 何が起こってるか分からない恐怖にためらい、障子戸から一度手を離す。 ひとまず深呼吸。 思い切って、そーっと少しだけ障子を開けた。 顔は出さずに、まずは目だけで周囲を確認。 暗がりの中、キョロキョロと目玉を左右に動かす。 今、この家の中で一体何が起きているの…? 大きな物音に悲鳴。 冷静ではいられない光景が頭をよぎり、嫌な緊張が走る。 半端じゃないほどの恐怖感。 さらにさらに心臓の音が大きく、速くなる。 恐怖も緊張も最高潮。 人の気配。 誰かが部屋の中を激しく動き回る音がする。 どうか、犬とかタヌキとかでありますように… 「キャー!」     
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