6.月のない夜には君の名を

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心のどこかで、こんなすぐそばで起きるわけないって思ってたんだ。 何度考えても、わたしはこの時代の人間じゃない。 この時代の人間にもなれそうにない。 人斬りが当たり前で。 血で血を洗う凄惨な出来事も隣り合わせの世界。 わたしに耐えられる? 耐えられない… 耐えられるわけなんかない。 今すぐもとの時代に帰りたい…! 他には何も望まないから。 早く現実に戻して…! もしも、戻れなかったら? 一生このままだったら…? その時はどうしたらいいの? こんなとこで一生過ごすなんて、夢も希望も持てやしない。 最悪よ… ゆっくりと起き上がる。 顔を伏せ、体育座りでうずくまった。 何でこんなことになっちゃったの? わたしの人生、絶望的。 すーっと、静かに部屋の襖が開く音がした。 誰…? 濡れた睫毛をそのままに、顔を上げて入口を見る。 「起きたのか。体、平気か?」 その声は土方さん…? 無意識に表情が強ばる。 布団の横まで来て、腰を下ろしてわたしの顔を覗き込む人。 やっぱり土方さんだ。 暗いけど、行灯のわずかな光で顔が見える。 みかん色のほわんとしたやわらかい灯り。 でも、目線は合わせられない。 「少しやつれたな」 まさか心配してくれたとか? 昨日、あの時…目が合ったと思ったのは気のせいだった?     
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