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「ああ。こういう場合、何かと女のほうがいい。お前も一緒に来い」
「はい。あの、局長」
「うん?」
「もしかして、わたしに会わせたかった人って深雪太夫ですか?」
「そうなんだ。時折見せる物憂げな表情が気になってね。君に会えば気分も晴れるんじゃないかと思ったんだ」
そして、その夜。
事情を知る土方さんと源さんと一緒に、局長のお供で新町へ向かった。
「失礼致します。深雪でございます」
「ああ…」
「ようお越しやした。毎夜お逢いできて、深雪は嬉しゅうございます」
心配の色を隠せない。
暗黙の了解で、誰も余計ことは言わない。
訴えるように太夫を目で追いかけると、彼女もこちらを見ていた。
内緒にしてと、何も言わないでと、目が訴えている。
「近藤先生…」
局長の隣へ行こうとしたとき、ふらっとよろめいた。
「深雪太夫!」
「申し訳ございません…つまづいてしもて…」
「大丈夫かい?」
「へぇ…」
慌てて支えた局長の腕に抱き抱えられる。
見つめ合う。
心配と動揺とときめきと。
ふたりの感情が交錯する。
不謹慎かもしれないけど、目の前で繰り広げられる大人のロマンスに視線が釘付けになった。
これはたぶん、いや確実に。
ふたりとも恋に落ちている。
「今日は舞はいい…。君と話がしたいんだ」
沈黙が流れる。
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