3.月あかりは今宵しも

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陽が暮れたばかりとはいえ、電灯もビルの明かりもない江戸時代は、現代に比べて幽暗だ。 昔の人は夕暮れのことを『逢魔時(おうまがとき)』とも言ったそうだ。 昼と夜とが移り変わる時間帯。 幽霊や妖怪や魔物に出くわしそうな怪しい雰囲気。 とてつもなく不吉な時刻、ということ。 言われてみれば…異様。 よく言えば神秘的。 普段のこの時間帯も雰囲気も何ともないのに、古風な景色と浮世離れした異質体験がそう思わせる。 浮世離れした…なんて思ってるけど、もともとこの時空間で暮らす人たちに言わせてみたら、迷い込んだわたしのほうが時代錯誤なんだろうな。 この辺りは長閑なのか、耳をすまさずとも虫の声がよく聞こえてくる。 かろうじてある民家の灯り。 ほのかな灯りを頼りにあてのない道を歩く。 これからどうしよう… ここはどこ?! 大学生になって京都に住み始めて数ヶ月、あちこち行ってはいるけど、それはあくまで現代での話。
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