27.花の春、散るらん

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「同じ曲を弾いても、人によって全然違う演奏になるんですよ」 「ほう、私は君のピアノしか聞いたことがないが、確かになぁ。落語や長唄だってそうだもんな」 「この作曲家の音楽は、楽譜に書いてあることだけを守って正確に弾いても、上手に聴こえないんです」 「情緒も風情も伝わらない。つまり、曲の良さが引き立たないということか」 「もちろん基本ができていて、楽譜を正確に弾ける技術があるのは大前提の話ですけどね」 努力と技術に加えて、芸術性やセンスというものも必要なのだろう。 「楽譜どおりに弾くだけでは曲は完成しない、ということなのかもな…」 フゥ~と深いため息をついて、天井を仰ぐ。 そして、ポツリと。 「…君が羨ましいよ」 「どこがです?」 「君は考え方が柔軟だ。正直に心を伝え、自分の意思に従って行動できる」 「それなら山南さんにだってできると思うけど?」 「これがね、思っているよりも意外と難しいんだ」 「正直に伝えて、相手を傷つけてしまうこともあります」 「それも真心。相手を思ってのことだろう。嘘はないと分かる」
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