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私は陽の家を出る。
頭の中は真っ白で、何も考えられなかった。
◇
――夜、家族が高校卒業のお祝いをしてくれた。両親と中学生の弟と小学生妹の賑やかな食卓。
テーブルの上にはご馳走が並んでいるが、私は時間が気になって仕方がない。
星見公園なら、家から自転車で十五分。
どうしよう……。
どうしよう……。
本当に、聖は待ってるのかな。
――八時四十分。
きっと嘘だよね。
放課後一緒に勉強したけど、あの手紙のことは一言も言わなかった。
もしかしたら、聖は他の女子に渡すつもりだったのかな。
――八時五十分。
私はスクッと立ち上がる。
「あれ?香凜どうしたの?チョコレートケーキ切り分けたけど、どこにする?いつもみたいに一番大きいとこ?」
「一番小さいのでいいよ。ごめん、ちょっと出てくる」
「は?もう九時だよ。夜遅くからどこに行くのよ」
「すぐに帰るから。どうしても行かなければいけないの」
「ちょっと香凜、待ちなさい」
両親に初めて逆らった。
玄関を飛び出し、自転車に鍵を差し込む。
もう午後九時を過ぎてしまった。
今から行っても、間に合わないよ。
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