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「 5 年前のは、妬けるけど … 今日のは許します。連絡しなかった俺も悪いし」
以前と同じように話してくる樹に、陽介は混乱していた。まるで、会えなかった日々がなかったかのような錯覚に陥る。
終わりだと思っていたことに続きがあるのか。いや、それとも、樹は律儀にも終わりを宣言しに、自分を訪ねてきたのか。
ぐるぐると頭の中が目まぐるしい。それと同時に、嫌な感情も体中を駆け巡り、陽介はそれを押さえようと頭を抱えた。
「何なんだよ … 今更 … 」
「 … 俺、先生を試したんですよ」
小さく縮こまる陽介に痛々しさを感じたのか、樹は少しだけ声のトーンを落とした。
「卒業しても、いつも俺からばっかり連絡取ってて … 。本当に、俺のこと先生好きなのかなって思って。だから、わざと連絡取らなかったんです。そしたら、本当に先生から連絡来ないし。なんかちょっと、俺もショックだし、イライラしちゃって。そのまま連絡取らないでいたら、タイミングを見失って … 。実際バイトと勉強も忙しくなって、全然連絡を送れなくなったんです」
静かに、樹は空白の時間を語り出した。
「ほんと … 送ろうと思ったんだけど …… 、正直、自信なくて。初めは、俺、脅しちゃいましたし。俺から離れたいのかもって思って。それに、男同士とか、そういうのも止めた方がいいのかとか …… 。俺なりに色々、先生との関係に悩んだんですよ」
久しぶりに聞く声に、こいつの声はこんな色をしていたのかと、胸が切なさで傷む。それと同時に、陽介はそういえば、と過去の自分を思い出した。
己もまた、 若かりし頃、同じように悩んでいた気がする。悩んで悩んで、辛くなってーーそれを手離すために、楽しい方へ逃げた。
「先生とずっと一緒に居たくて同じ教師になろうと思ったけど、やめました」
樹の言葉に、ギクリと陽介の肩が震えた。
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