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要らぬ悩みを押し付けた罪悪感と自分のことを忘れていなかった嬉しさと同時に、これから告げられるだろうハッキリした別れの言葉を思い、唇を噛んだ。
「学校での恋愛はスリルあるけど、色々面倒だったし。だから、近くの会社にしました。そのために、学部も変更しました」
樹が何を言いたいのか分からない。一向に告げられない言葉に、陽介は眉を寄せた。
「そういうのもあって、俺、単位落としちゃって。一年留年して、実は、先週卒業式だったんですよ」
「え … ?」
しかし、予想外の言葉に、陽介は小さく声を上げた。
「ちなみに、就職は高校の近くにある証券会社です」
「 … 」
「だから、先生に会いに来るのが、こんなに遅くなっちゃいました」
樹の言葉に、ゆっくりと陽介は顔を上げた。ひどく怯えたような、けれど、隠しきれない期待が瞳の奥に覗いている。
暗闇の中で、それに気づいたのかは分からなかったが、フッと樹が柔らかく、愛しいものでも見るかのように笑った。
「今日会って、先生が俺のこと全然何とも思っていなかったら、諦めようかなって思ってました」
樹がもう一歩。一歩だけ近づいた。二人の距離が縮まる。
「でも、分かった。先生、俺のこと好きなんですね」
「っ、…」
陽介が、息を飲む。
「そうですよね。だって、俺が1年の時から、好きだったんでしょ?あの熱い視線に、俺も気になっちゃって、先生のこと、すぐに好きになっちゃったんですから。だから、好きでもない生物頑張って、必死に質問しに行ってたんですよ?ーー本当に好きじゃなきゃ、そんなことしないでしょ」
陽介と同じ視線になるようにしゃがんだ樹が、少しだけ恥ずかしそうに笑った。
初めて知った事実に、陽介の唇が戦慄く。
「…そ、んなの…」
知るはずがない。
1度もそんな話はしてこなかった。
終わりのある関係に、そんなものは必要ないと、思っていた。
「先生…、好きです。一度もちゃんと信じてもらえなかったけど…。もうずっと好き。先生のこと、忘れられなかった」
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