先生

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真っ直ぐに、樹が陽介の瞳を射抜く。 陽介はただ、恐れた。自ら手放してた未来をどう扱っていいのか分からず、嬉しさよりも恐怖に、陽介は震えた。 「先生も俺のこと、忘れてなかったんでしょ?だったら…連絡してよ。俺だって不安なんだからさ…」 (ーーああ、そうだ) と、陽介は思った。 これは、自分の言葉だ。昔、伝えたかった言葉。こうやって本当は伝えれば良かったんだ。 ポロリと、陽介の瞳から一粒涙が零れる。 「…っ、忘れられなかった…ずっと。ずっと…っ…」 悲痛な声が、漏れる。 黒沢のことも、樹のことも、ーーー何もかも。本当は忘れられなかった。 「もっと…ちゃんと話し合ったりすれば、良かったですね」 不安を。未来を。二人のことを。 たった、それだけのことだったのに。 初めて見せる涙を、樹の手がそっと拭う。 記憶の中の体温より、少しだけかさついて、ーー温かかった。 「ねぇ、先生」 陽介の前に、手が差し伸べられる。 「これからデートに行きませんか?」 しどどに濡れた瞳が揺れる。 暫くして、陽介は穏やかに、そして、小さく嬉しそうに笑った。 「…そうだな」 そっと指先を絡める。 暖かな夜風が吹いた。 墓石に刺した桜も揺れる。 ひらりと、花弁が落ちた。それは、そっと優しく、開花前のーーーこれから開いていく蕾に触れ、ゆっくりと風に流されていった。 end
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