先生

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樹は、陽介の勤務する男子高校の生徒だ。  陽介が樹のいるクラスを担任として受け持ったことは3年間で1度もなかった。しかし、選択科目の生物を1年生から履修し続け、好成績を上げてくる彼は、陽介の中で目立っていた。授業内容だけでなく、生物に関する様々な質問を積極的にしてくる樹に対して、生物教師として単純に嬉しかった。しかも、ある程度整った容姿に、清潔感のある短い髪型、バスケ部で培ったと思われる高身長。もしも、陽介がゲイじゃなくても、魅力的な男だった。  陽介が樹に惹かれるようになったのは、そう時間がかからなかった。 だから、男子高校には勤務したくなかったのに、と樹に惹かれ始めた頃、陽介は思った。 とは言え、ゲイを隠している陽介が、本当の理由を言って異動を拒否することも出来ず、うっすらと危惧していたことが起こってしまったのだ。 しかし、生徒とどうこうなろうとは、思わなかった。だから、自分さえ気をつけて自戒してれば大丈夫だと陽介は思っていたのだった。 だが、それは呆気なく砕けた。 それはもう一年も前の事。 放課後、生物科学室で、趣味で飼育しているクリオネの水を陽介が換えている時だった。 「クリオネってさ、可愛いけど肉食なんですよね?」 「よく知ってんな。しかも、食べ方が意外とグロいんだぜ」 「何か、トウモロコシみたいな名前の触手出すんでしたっけ?」 「トウモロコシってなんだよ。バッカンコーンな」 「そうそう、それそれ」 「っと!あー…」 床に敷かれたケーブルに引っ掛かって体勢を崩すと、水槽に入れようとした水が大量に零れた。白衣とズボンにかかり、股間部分から左足の先まで濡れてしまった。グレーのズボンのため、濡れたところが良く分かり、漏らしたみたいで陽介は眉をしかめた。 「弥市。その辺にある雑巾取ってくれ」 「はーい」と雑巾を差し出された。手に取るものの樹の手が離れない。相手へ訝しげな視線を送るが、樹はにっこりと笑っていた。 「なんだ?離せよ」 「先生さ、先週の土曜日に新宿に居ませんでした?」 「……は?」
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