43人が本棚に入れています
本棚に追加
※※※※※※※
卒業式は、無事に終わった。
今年は3年生を受け持たなかったとはいえ、自分の知っている生徒達が卒業していくのは、寂しさと嬉しさを感じる。特に今年は、少しばかり寂しさの方が大きい気がした。
式が終わって、卒業生達が卒業アルバムにメッセージを書いて欲しいと陽介のところにもチラホラ来た。
樹は、他の生徒達がいなくなったあたりに、ようやく陽介の所へ来たが、メッセージだけでなく夜の予定も欲しいと言ってきた。しかし、卒業式当日は、しっかり友人達と別れを惜しんでくるよう促して、陽介はそれを断った。大きい図体で、幼い子どものように口を尖らせて樹は駄々をこねたが、明日以降は会う約束をすると渋々承諾した。
そして、生徒達がいなくなった学校で、卒業式の残りの片付けや会議などをして、仕事が終わったのは夜だった。
その足で、陽介は花屋で桜の枝を2本買って、ある場所へ向かった。
薄紅色の花弁が外灯に照らされて、まるで雪のように暗闇を舞う。桜の木々が墓地の周りを囲んでおり、風が吹く度にお墓の前へ花弁が積もる。卒業式の時に見た桜と同じはずなのに、場所が違うだけで全く違う花のように見えた。
そして、洋型墓石が並ぶ中、陽介は迷うことなく1つの墓の前に立った。
『黒沢家』と書かれていた。
真新しい仏花が添えられていた。多分、御家族が添えたのだろう。陽介は買ってきた桜の枝を、仏花の入った瓶へそれぞれ差す。そして、しゃがみこむと両手を合わせて、静かに祈った。
「今年も綺麗だな?…黒沢先生」
故人の名前を呟きながら、陽介は穏やかに、けれど、寂しさを交えて小さく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!