先生

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『黒沢先生』は、陽介が高校3年生の時の担任だった。 そして、陽介の『恋人』だった。  今の陽介よりももう少し上の40手前の歳で、古典を担当教科に持ち、線が細く穏やかだがどこか厭世的な先生だった。あの頃は、社会を達観しているような落ち着きが、大人の魅力のように陽介には思えた。  既に自分がゲイだと理解していた陽介は、彼への気持ちが恋愛感情なのだと分かっていた。そして、黒沢に近付いて、若さのままその感情を暴露した。黒沢は受け入れてくれて、二人の秘密の関係が出来上がった。 陽介は、黒沢を愛し続けると思っていたし、二人の関係もずっと続くと思っていた。 だが、高校を卒業し、大学生になったら、世界が違った。 高校までのことが全て過去になり、広がった視野に常に興奮していた。 そうして、黒沢との連絡は自然と少なくなり、大学を卒業する頃には全くなくなっていた。それが、悲しいとも寂しいとも思わなかった。黒沢からも別段、催促の連絡はなかった。 けれど、陽介が後悔したのは、その1年後だった。 桜が咲く時期だった。 ―――――黒沢が、死んだのだ。 事故だったと同級生から聞いたが、陽介には信じられなかった。亡くなった日にちは、陽介が高校を卒業した日と同じだった。  ヴヴッとコートの中のスマホが震えた。 樹からだった。 写真が何枚か送られていた。カラオケの一室で、卒業証書を持ちながら友人達と楽しそうにしていた。 陽介は穏やかに、そして、寂しそうに微笑んだ。
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