◆三.

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◆三.

 『さくらソフト』の茶屋は当時の面影そのままに、哲学の道に残っていた。  道端には赤い布を掛けた椅子が揃い、野点傘で日影が作られている。  さくらソフトを1つ、と私は受付で注文する。バイトだろう、受付の子には見覚えが無かった。ひとつ、という言葉の響きがなんだか寂しかった。  二、三分で出てきたさくらソフトをひとなめする。自転車を押すのに疲れていた身体には、この冷たさと甘さがとても心地よい。  見かけはバニラのソフトとあまり変わらないのだが、ほんのりピンクに染まったクリームは舐めてみると確かにさくらの味がする。うっすら甘いその香りは、当時と全く同じだった。違うのは、横に山城先生がいないことだけ。
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