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◆四.
「さくら味の正体って実は毒なんですよ」
「……え?」
美味しい美味しいと二人で夢中で食べていた最中、突然山城先生が切り出した。危うく、ソフトクリームを手から取り落としそうになる。
「クマリンっていう葉に含まれている毒を、塩漬け処理した時に出てくる匂いなんです。さくらの味は、この匂いで作り出したものなんですよ」
「……じゃぁ私達今毒を食べてるんですね」
「その通り、だからこそ生徒達の為にも我々が毒見しないといけないんです」
……言いたかったことはそれか。
気付けば歩道も広くなり、山城先生が私の右隣に来ていた。それに気づいた瞬間、少し胸がドキドキする。
小柄な私と比較せずとも、山城先生は大きい。私とは25cm程背が離れていて、多分見えている景色も大分違うんだろうなぁと思う。引率行事は生徒の体調やスケジュールなど気に掛けなければならないことも多く結構疲れるのだけど、山城先生と二人で回れたのはとても嬉しかった。
山城先生は私より6つ上の男性教員で、私の新卒指導教員だった。彼が担任しているクラスの副担任を私がしている。山城先生の第一印象は抜けた性格の頼りない人というイメージだった。生徒からもよくバカにされたり、舐められたりしているところを見かけたし、とんでもない人のところについてしまったなと思ったものだ。ところが、副担任として一カ月も見てみると実は相当しっかり生徒達のことを観察していることがわかる。どうしても教員はすぐに手を差し伸べてしまう人が多いし目立つけれど、彼は「優しく待てる」教員だったのだ。
自分も生徒の頃、こういう先生が好きだったなぁと思っているうちに、彼は私の憧れを越え、ほのかに恋心を抱く相手となった。15歳以上違う生徒に対しても私に対しても敬語を崩さない彼の姿勢にも好感がもてた。
最近は飲みに誘ってもらったり、一緒に各地の研修会に出てみたり、生徒の大会の応援に行ったり……お互い色んな話もした。悩みもたくさん聞いてもらったし、反対に先生の愚痴を聞くことだってあった。しかし私の思いに先生は気付いているのかいないのか、相変わらず判然とはしておらず、今日のことも先生はどう思っているのだろう……。
「哲学の道って、なんで哲学の道って言うのか知ってます?」
出し抜けにそんなことを聞かれたのは、私がそんなことを思い悩んでいる時だった。
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