◆六.

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◆六.

「島波先生、さっきからやたら躓いていません? やっぱり自転車に乗った方がバランス取りやすいですか?」 「えっ、いやそんなことないはずです。大分慣れましたし……」  何かあった時に一番小回りが利くと教員はそれぞれ自転車で移動していた。自転車ぐらいすぐに乗れるだろうと思ったのだけれど、中学以来ブランク10年。最初の30分くらいはあっちによろよろ、こっちによろよろ、山城先生にも大笑いされていた。でも、今はもう落ち着いたはずなんだけど……。 「おかしいですね……きゃっ!」 「ど、どうしました?!」  私がその現象に気付いたのは押している彼と私の自転車を見比べた時だ。 「私、自転車壊しちゃったかもしれません……」 「というのは……?」  先生が怪訝そうに私の自転車を見つめる。 「見ててくださいね。ほら、自転車を押すとペダルが勝手に……」  自転車を押すと、勝手にペダルがくるくると回転を始めるのだ。山城先生の自転車は当然そんなことはない。私の自転車だけ、まるで誰かが乗っているかのように……。 「あー……、これは幽霊ですよ、きっと。ほら、宿に出るって言われてたじゃないですか……」 「や、やめてください!」  22歳にもなって呆れるが、私はこの手の話が大の苦手だった。教員部屋に置いてあった日本人形も怖くて、向きを反対にして寝ていた。今思えば、むしろ呪われそうな気もする。 「島波先生、こういう話苦手なんですね。大丈夫ですよ、幽霊でも先生が壊したわけでもありません。ちょっと道を外れて、あの大きな桜の木の下で休憩しますか。代わりますよ」  山城先生は背も高いが、目もかなり良い。私にはよくわからなかったが、視線の先にはどうやら大きな桜が見えているようだった。  山城先生は自分の自転車をその場に止めると、私のおかしな自転車に手を掛ける。その瞬間、山城先生の手と私の手がハンドルの上で触れ合い、私はドキッとする。 「あ、私も代わりに先生の自転車運びますね」  私は一瞬の顔の火照りを隠し、山城先生が押していた自転車を運んでいく。
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