第四章 罪無き悪意

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第四章 罪無き悪意

「よく降るな……」  第二理科実験室の窓から、僕は雨に濡れたグラウンドを一人見下ろしていた。 「この分じゃ、今日はグラウンドは使えないだろうな……」  いつもはうるさく感じていた運動部の喧騒も、放課後にハシャぐバカ共の声も、今日という日に耳にできないと思うと今は寂しさすら感じる。 「さて……」  僕は窓を離れ、机に向かう。机の上には、すでに私物をまとめてある。僕は忘れ物が無いか、もう一度チェックを始めた。 「これと、これ。それからこれも……大丈夫そうだな……」  忘れ物は無さそうだ。そして僕は、部室をぐるりと見回した。僕のプライベートルームと化していた第二理科実験室。生物部が僕一人になってから随分経っていたし、正直、あまり感慨とものは無いのだが、それでも一年生の頃からを思い出してみると――フッ、と小さな笑みが零れた。 「わりと、楽しかったかもしれないな……」  と、突然ドアが開き、うるさい声が入ってきた。 「こら徳川! 二時限目はもう始まってるぞ。いくら勉強が出来るからって授業はサボるな!」  坊主頭にジャージ姿。とてもじゃないが理科教諭とは思えない倉橋先生だった。     
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