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僕が雲の上を歩くような
フラフラした足取りで辿りついた頃には。
到着ロビーには続々と
帰路につく人々が姿を表し始めていた。
忙しなくあたりを見回す。
見逃すはずなんかないのに。
どこにいたってあの人が
人波に埋もれてしまうようなことはない。
「……和樹?」
そして彼の方も
僕がいつどこに現れたって見逃すはずはない。
「九条さん!」
振り向くと小型のトランクケースを引いた彼が
夢から覚めたばかりのような顔をして立っていた。
僕の方は?
僕はどんな顔してるんだろう?
およそ想像もつかないまま僕は
柔らかな素材の彼のロングコートの裾が
歩くたび蝶の羽のように揺れるのを
立ち尽くしただ呆然と眺めていた。
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