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だいぶ長い時間に感じる沈黙が下りて。
やがて九条さんは静かに
俯いたまま身動きしない僕の腰を抱いた。
「なんだか――死神を迎えに来たみたいな顔だね?」
「あっ……」
トランクから離れたもう片方の手が
そう言って僕の唇を撫でる。
「ほら、目を上げて」
言われても――。
「ん……」
甘やかな指遣いに僕はただ
言葉を失った赤い唇を震わせるだけで精一杯だった。
「困ったな。可愛い子が――僕の顔を見てくれなくなった」
溜息交じり彼は僕の耳に囁く。
「ねえ、どうすればいい?」
僕は余計に硬直した。
優しい声色にどこか
九条敬らしからぬ駆け引きを楽しむような響きがあったからだ。
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