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いくらもせずホテルに着いた。
思えばチェックインするには法外に早い時間だった。
それでも僕は連れられるがままフロントを素通りし
九条さんは笑顔のホテルマンから最上階の鍵だけ受け取った。
そこでやっと気づく。
皮肉なことにここもまた
我が家の――ひいては天宮家当主の息のかかった傘下であると。
「ベッドはあっちだよ――」
部屋の扉を開けるなり九条さんは求めてきた。
「ンッ……」
何も言わない僕の唇を塞ぎ込みながら
彼にしては珍しく
忙しなく上着を脱ぎネクタイを緩める。
(怒ってないのかな……)
されるがままベッドに押し倒された僕は
子供みたいに思う。
彼が怒ってなければいいのに――。
何より一番に今この場を凌ぐ。
身についた浮気者の浅知恵だ。
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