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「あんな状況のまま――君を置いてフランスに行ったりしてごめん」
あんな状況――。
それが何を指すにしろ
やはり彼があの場にいたのは間違いないようだった。
「僕には時間が必要だった。どうすればいいか分からなかったし、僕としては――」
九条さんは自分に言い聞かせるように言った。
「君に裏切られたとも感じたが……同時に君が僕らの関係を守ろうとしてしたことだというのも理解できた」
薄井千尋に手籠めにされた僕の姿を思い出したのか。
僕を抱く九条さんの手に痛いくらい力がこもる。
「あの日……僕をつけて来たの?」
「ああ」
「それで……見た?」
「見たよ」
呼吸できないみたいに
苦しげに息を吸う音がして
「僕とパリへ行くのを条件に……君があの男に玩具にされるとこ」
ようやく絞り出すように九条さんは言った。
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