episode229 サイコパス変性 ①

2/30
106人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
そう。 嘘だ。 一睡もできなかった。 張りつめた朝の空気同様 僕はひどく緊張していた。 まだ人もまばらな空港のカフェテラスに入ると。 「ねえ、僕そんなにヒドい顔を?」 メニューを眺めるよりずっと熱心に 僕はミラーに映った自分の顔をじっくりと見回した。 「大丈夫だって。君は綺麗だ」 「本当に?」 カプチーノのカップを2つ持って 隣り合わせのスタンド席に着いた椎名さんは 僕を安心させるように言った。 「ああ、僕がヴァンパイアなら処女と間違えて血を吸うくらいにね」 冗談めかして首筋を撫で上げる。 「やめて。今は笑える気分じゃないの」 ああ――とても。 とても笑えるような気分じゃない。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!