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そう。
嘘だ。
一睡もできなかった。
張りつめた朝の空気同様
僕はひどく緊張していた。
まだ人もまばらな空港のカフェテラスに入ると。
「ねえ、僕そんなにヒドい顔を?」
メニューを眺めるよりずっと熱心に
僕はミラーに映った自分の顔をじっくりと見回した。
「大丈夫だって。君は綺麗だ」
「本当に?」
カプチーノのカップを2つ持って
隣り合わせのスタンド席に着いた椎名さんは
僕を安心させるように言った。
「ああ、僕がヴァンパイアなら処女と間違えて血を吸うくらいにね」
冗談めかして首筋を撫で上げる。
「やめて。今は笑える気分じゃないの」
ああ――とても。
とても笑えるような気分じゃない。
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