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すがるように伸ばした
僕の手に口づけて
「うん。見たよ――知ってる。薄井を襲った覆面の男」
九条さんは僕が飲み込んだ言葉の後を継いだ。
「見たって……男の顔を?」
「ああ――」
表情が曇る。
困惑しているようにも見える。
その顔が示すのは
えてして良くない事柄だと理解はしても。
「話して」
結末がどうであれ
物語の先を知りたがる子供みたいに僕はせがんだ。
「……君は知らないの?」
九条さんは囁くように言った。
「君は本当に知らないの?」
とても遠慮がちに
言葉を選ぶように。
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