序章

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 人類唯一の統治機構のヴィオスは、少数支配政治である寡頭制〈かとうせい〉を敷いた地下要塞都市国家である。ぼくたちは原則として彼らの政策決定に付き従い、その恩恵を授かる権利と、身を奉げる義務を孕んでいる。  武装観測隊もそうした一環で、指導者達の思惑は外界、すなわちかつての地上世界へと向けられた。  彼らは人類の復権を夢想し、旧時代の繁栄を取り戻したいのだろう。  しかし、皮肉なことに世界を、人類を破却〈はきゃく〉寸前にしたのは、悪魔のような人間の少女だった。  そうアリス・イン・ジェノサイドだ。  彼女の何がどう悪魔的かと言えば、人智を凌駕した〝力〟を有していた点だろう。信じがたいその力は、文明を焼き尽くすのを容易くこなした。まるで業火を操る戦神インドラの如くと、東洋系の誰かが回想していたような。  近代兵器を玩具扱いする彼女は、アメリカとかいうヴィオスの何百倍の国力を有した大国の、水爆の直爆にも微動とせず、難なく受け止めたらしい。
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