序章

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 ぼくは世界の色を知らない。  それがどれほど多彩で素晴らしかったかを、口伝によってもたらされる人々の感傷でしか想像ができない。  ぼくにとって、世界は色のない虚空で、その中の人々の営みは、アリみたいな真社会性生物のコミュニティと酷似していた。ぽっくりとひけらかした大口のほら穴で、ひっそりとテキパキと労働にいそしむ。それが種族の生存以上にならない生産性でもって、微量に残存されてしまった人類は、淡々と命脈を保っている。どこまでいってもそれがぼくの常識だった。  そこに希望とかいう明るい極彩色は絶無で、それをいまどき懇願しているのは過去の栄華とやらを知っている耄碌〈もうろく〉達だけだろう。
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