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しばらくして、幸運にもヘドロ雨はやんだ。ぼくはビークルの窓ガラスにへばりついた泥をワイパーブレードで拭った。
「各員に伝達。移動を再開する」
ぼくは事務的にそう言い、ビークルの素粒子エンジンを可動させた。
「隊長さん。こんなのが続くのはいやよ。そもそも私は頭脳労働専門なんだから。現場でジタバタするのはごめんだわ」
「君がぼくに罵声を浴びせて天候がどうにかなるなら、ぼくも甘んじてそれを受け入れたいけど。残念ながらそうもいかない。もう外界は、さっきみたいな極端気象が常態化している魔の空間だ。外の状況をそこまで気に病むなら、その明晰な頭脳で寡黙に電探でも見てほしいね」
「あんたって涼しい顔して、案外堂々と嫌味を言うわね」
「これが嫌味だったら幸いだけど。厳然たる事実だ」
直後、謎の衝撃波がビークルの車体を左右に揺らした。ぼくとエルザは慌てて窓ガラス越しに外界を見回した。するとビークルの背後を監視していたマティアスが何かを発見した。
「た、隊長! 〝例の奴〟だ!! かなり大柄だぞ!!!」
マティアスは緊迫した様子でぼくに迫った。ぼくもそれを目視で確認した。
それはビークルの全長を倍にしても比較にならない程の体長を有する、芋虫の形をした人面の化物ーーーとしか言語として説明できない歪な生命体が、気色の悪い笑みを浮かべて這いずっている光景だった。
初見殺しの極みのような存在だが、ぼくはこいつを知識として把握していた。
「アリスの眷属だ」
ぼくはマティアスに教えるように伝えた。
「あれが・・・」
口をわなわなと震わしながらマティアスは呟いた。一方エルザは、奴を見るなり気絶して深い眠りについていた。寝顔がそこそこ可愛かったのが実にシュールだった。
「慌てることはない。こちらから妙な動きをしなければ、無害だ。あれは基本的に防衛本能システムが作動しないかぎり、絶対に攻撃を仕掛けない。そうアリス・イン・ジェノサイドが〝設定〟している」
ぼくはなだめるようにマティアスにうながした。
アリスの眷属はその禍々しい笑顔をビークルに近づけ、気色悪くこすりつけてきたが、しばらくして地中に去っていった。
「やっといったか」
ぼくは額にこぼれる汗を手の甲で拭いた。
「」
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