桜吹雪

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今年も春がやってきた。 家の前の桜はとても綺麗で、去年は桜をカメラ片手に見に行ったな、なんて思う。 今年はどうにも見る気が起きないが、ATMまではいかなければならない。 私はのんびりと準備をして、のんびりと外へ出た。 桜が、見える。 眼に入る桜を気にしつつも、私は歩みを進めて、ATMのある銀行まで来た。 さっさと用事を済ませて外へ出ると、近くの公園に桜が見えた。 「そういえば、この公園……。」 私は思わず歩き出していた。 そうして、公園の桜の木の下までやってきた。 見上げると桜の枝が広がって、青空が花と枝の隙間から見えている。 去年もこうやって見上げた。 そう、去年も。 去年より少し伸びた枝はその分多く花をつけていて、風に吹かれて花を散らしている。 桜吹雪のように舞い散っている桜の花びらが、とても綺麗で、 私はポケットの中のスマホに手を伸ばす。 スマホを触って、やっぱり、と出すのをやめた。 「今年はもう、共有する人はいないんだ。」 声に出してみると、その言葉はすっと身に染みるように消えた。 桜の時期に近寄って、そして離れた、彼の姿は少しぼやけて目の奥に浮かぶ。 今と前とのギャップについていかず、ぼんやりと過ごしてきた頭が 少しすっきりしてくる。 「もう、いないんだ。」 不思議と悲しさも淋しさも感じなかった。 今まであった整理できない感情がゆっくりと溶けていく。 桜の花びらが私の頭に肩に、手に乗っては舞い上がって落ちていく。 彼との思い出も同じように思い出しては消えていく。 「綺麗だなあ。」 ようやく、そう呟けた頃には頭はすっきりして、 がんじがらめになっていた心は、軽くなっていた。
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