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――時は戦国、嵐の時代。
西暦でいうなら千六百十年だから、今からざっと四百年も昔の事。
日本が東の徳川と西の豊臣にわかれて天下の覇権を争っておりました頃。
そんな人間同士の争いの陰で、もうひとつの大きな戦いが繰り広げられておりました。
人の目に見えぬ世界……妖怪世界の戦いでございます――。
「おのれ下郎どもが! この怨み、はらさいではおくものか~~っ!」
「妖姫さま! この金剛鬼、お気持ちは痛いほどに身に染みもうします。が! 我らが盟主、骸鬼大帝さまは既に亡く、ここで姫さままでが討ち死にされては、我ら一党、もはや明日がござません! どうか明日のために今日の屈辱に耐えましょう!」
炎に包まれ崩れ落ちる居城を見据え、口惜しさに歯がみする美しい姫君に僧兵姿の大男はいった。
「準備はできております! ひとまず相模(現在の神奈川県周辺)の国へ」
「相模? 猿どもが干物を作っているという、あの相模へか? く……口惜しや。なぜ、私が、あんな田舎に……!」
と、憤る妖姫の耳に柔らかな男の声が聞こえた。
「そう申されるな、妖姫どの。田舎なれども相模は良い土地ですぞ」
そういって姿を現したのは、この戦場には場違いな、まるで都の貴人のような出で立ちをした若く、そして整った顔立ちの侍だった。
頭には烏帽子を頂き、腰には太刀。
純白の羽織に五縫星の家紋。惚れ惚れするような姿だが、妖姫は身を固くした。
「誰だ、その方? みたところ人間のようだが」
「拙者は相模の陰陽師、下野三郎住定。そこにおられる金剛鬼殿の友にございます」
下野住定と名乗った、その侍と家臣の金剛鬼に妖姫は訝しげな視線をなげた。
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