プロローグ・あやかしと人の理(ことわり)

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「陰陽師? 友? どういう事だ、金剛」  訊かれると、金剛鬼は妖姫の前にひざを折った。 「数年前、手前は、そこにおられる住定殿と力比べをいたしたことがございまする。たかが人間……と、軽んじておりましたが、術にも度胸にもたけた男にございますれば、互いの力を認め合い、友になりましてございます。ゆえに助けを乞うたまで。信用のできる人間なれば、姫さまの助けになってくれましょう」  それを聞くと妖姫はかぶりをふった。 「……解らぬ。陰陽師といえば大昔から我ら妖怪族を退治してきた一族ではないか。金剛鬼の友とはいうが、どうして我らを助けようなどとするのか?」 「疑問はごもっとも。しかし今の世の中、武士の天下で陰陽師が出る幕ではないし、人間同士が天下を争う時代に妖怪世界の覇権も意味がありますまい? いわば我らはお互い時代に流された者同士。かつての宿敵が手を取り合うのも、また面白くはござらぬかな?」 「………………」  妖姫はしばらく黙っていたが、やがて静かな声でいった。 「……是非もない。陰陽師……下野三郎住定殿。貴殿を信じ、世話になろう」  その言葉を聞くと、住定もまた微笑みを浮かべてうなずいた。 「聞き分けて頂けたようですな。では、ここより相模の国まで百里(※約400キロ)ほどの長旅。急がず慌てずまいりましょう。……さあ」  ――かくして、戦さに敗れた妖姫と家臣たちは、陰陽師、下野行定の手引きで遠く相模の国へと落ち延び、彼の地に身を潜めました。  時に慶長十四年、時代が『戦国』から『江戸』へと移りかわろうという頃の話でございます。 そして月日は流れ、四百と数十年――。
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