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第一章・家業廃業御用心
「ふ――――む……」
自宅の居間に座り、下野ユキナは悩んでいた。
目の前には長方形の模造紙と太い筆、お皿に入れた墨汁。
習字はあまり得意なほうではないけれど、こういうやりかたをしたほうが雰囲気が出る。 さて、なんと書くべきだろう?
「決めた! なによりわかりやすさだよねっ。ふ……んっ! ふぅ――っんっ! ふんふんっ ふう~~~~んっ!」
鼻息も荒く筆を走らせ、できるだけ目立つように文字をつづる。
「……できた」
『本日以て陰陽師を廃業いたし候。長年のご愛顧、誠にありがとうございました』
出だしは難しく、終わりは簡単で、なんとも座りが悪いけれど、とにかく予定通り墨字で書いたということで、ユキナは満足した。
どう体裁よく書いたところで廃業は廃業なのだ。こんなもんでいい。
数日前まで元気だったスチャラカ親父のパパは死んだ。
交通事故。あまりも唐突で、あまりにも、あっけない最期だった。
残されたものは、住み慣れた小さな家、わずかばかりの保険金。
まだ十五歳にみたないユキナは、女の子ひとり、天涯孤独で生きて行かねばならない。
だから、呪われた家業も今日で終わりだ。
すると、じんわりと涙が滲んだ。
「……それにしても、パパも面倒くさいモノを残して逝っちゃったもんだよねー」
ユキナは押入の中に放りこんである父親の遺品を見つめつぶやいた。
怪しい壺や、怪しい絵画、先祖代々の骨董品、あと占い道具一式。
どれもこれも父親さまが集めたモノや、商売道具だ。
陰陽師。この、一般人には訳のわからない『ヘンな職業』が下野家代々の家業だった
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