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『ユキナよ。おまえは、由緒正しい陰陽師の家に生まれた娘。なのに霊感とか神通力の才能に恵まれていない。……まったくないともいわないが、才能がゼロに近いことは否めん。まあ、男まさりでも女の子だし、やはり跡継ぎは無理かなあ。……ははは』
「フン、悪かったね! 才能なくてっ!」
父の遺品と、にやけ顔の遺影に悪態ひとつ。
いまの時代陰陽師だの霊媒師だの怪しい商売を継いだところで役にもたちそうにない。
占いの技術や能力があるなら『名前だけ陰陽師の占い師』も成り立つだろうが、あいにくとユキナはまったくそういった『力』に恵まれていなかった。
――こんな事になるんだったら、親父さまが死ぬ前に文句の一つでもいっておけば良かったよ。済んでしまったことは仕方がないんだけど……。
「なにくそ! あたしには、あたしの進むべき道がある! それこそが民俗学者への道!
民俗学者。これまた名前こそはよく聞くが、その実態はあまり知られていない仕事だ。
辞書をひくと、こんな説明がなされている。
『民間伝承を素材として、民族文化を明らかにしようとする学問』。
そのジャンルの中に、妖怪や幽霊の研究というのがある。
ユキナはこれを、わけのわからないものヘンなもの、そういったものをやっつける学問だと考え、強い魅力を感じていた。
そもそも家業である陰陽師なんてものこそが"わけのわからないヘンなもの"の代表に思える自分が、その家業に立ち向かうにはコレしかない……と、そう考えたのである。
――そうだ。ウチが貧乏だったのも、気味悪がられて友だちが少なかったのも、み――んな古臭くて非科学的な、呪われた家業のせいなんだ。そういう意味じゃ、親父さまだって犠牲者だよ。こんな家業がなければ、親父さまも好きな仕事に就けたろうに……。
こう考えていると、ユキナはいつも悔しくて涙がでた。
「親不孝、先祖不幸といわれたってかまわない。親父さまは天国にいるお母さんのところへ逝ったんだし、あたしは自分の進むべき道を決めた。あとは幕引きをするだけだい!」
すっくと立ち上がり、拳で涙を拭うと、ユキナは憎き遺品たちをジロリと睨んだ。
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