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桜の時
満開の桜の下。
少女は背を向けるようにしてたたずんでいた。
春のいたずらな風が、花びらと共に
長い黒髪を巻き上げる。
「なんだよ、急にこんな所に呼び出して」
不意に投げかけられた言葉に、ゆっくり
振り向いた。
「お前、今日卒業式じゃないのか?」
男がいぶかるような視線を投げると、少女は
困ったような顔をする。
「どうしても、貴方に伝えたいことがあって」
「はぁ?そんなの式が終わってからでもいいだろ」
男には少女の行動が理解できなかった。
高校の卒業式の朝、いきなり電話で呼び
出されたのだ。
『 今すぐ会いたいの。あの桜の下で待ってる 』と。
「だいたい、お前。
おれとは口ききたくなかったんじゃねぇの」
つい乱暴な言葉が出てしまう。
3日前、ほんの些細な事で口げんかになった。
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