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ウィルバートはたまらず口を挟んだ。
「王子!手を出すのは流石に――」
「喧嘩じゃねェ。勝負だ」
アスタはサラから視線を逸らさない。彼女も、彼から視線を逸らさなかった。二コラはウィルバートに囁いた。
「無駄です。この二人、一度喧嘩が始まると止まりません。早く決着をつけさせるのが、一番早いんです」
ウィルバートはため息をついた。ラッシュは二人に問う。
「一本勝負でいい?」
「おう」
「えぇ」
サラはアスタに言い放つ。
「私が勝ったら、授業をさぼらないこと。2週間は絶対です」
「俺が勝ったら、俺の行動に口出ししないこと。2週間」
「無理です」
「じゃ、1週間」
「……分かりました」
しぶしぶ彼女は了承し、両者とも構えた。ラッシュが手を振り下ろす。
「始め!」
――開始の声がかかったのに、両者とも動かない。いや、サラは意図して動かないのだが、アスタが手を出してこないのを見て、目を丸くする。彼女を見て、アスタはにやりと笑い、緊張を解いた。
「護身術ってことは、相手に捕まった時にどう返すか、どう逃げるかを勉強してる。つまり手ェ出さなきゃなきゃいい」
「でも、それじゃ決着もつかないですよね」
「いいんだよ」
アスタはどかりと座りこんだ。
「俺、サボりに来てんだから」
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