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涙桜は一度だけ哭きながら恋をする。
十年前、田舎の廃校で放火事件が起きた。
満開を迎えていたその桜は青い炎で燃えあがった為に青白い火の粉が、涙を散らす様に舞い散っていたと言われている。
そしていつしかその桜は“涙桜”と呼ばれる様になっていた。
「誰だ、桜の木の下には死体が埋まっているとか言い出したヤツはっ!」
「梶井基次郎だよ、季楽ちゃん」
「死体遺棄幇助だぞ!」
「そりゃとんだ冤罪でしょ、って言うかこんな所で油売ってて良いの? 捜査一課の刑事さん」
季楽は作務衣を着て釜の前に立つ紬の後姿を見ながら「へいへい」と怠い体を立ち上がらせる。
県警の捜査一課に配属されて四年。馬渡季楽は捜査で会えなくなる前に、幼馴染兼恋人である紺野紬の作業場へと来ていた。
紬は“紺屋”と言う名の染物屋を継ぎ、毎日染物を作る為に作業場であるこの離れに籠っている。
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