コインゲーム【1】‐girl-

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コインゲーム【1】‐girl-

衝動的に彼に会いたくなるのは、いまだにホームシックから抜け出せていないからだと思う。 「今から会える?22時になったら寮を抜け出すから」 21時。 彼に一通送れば、きっと明石から車を飛ばして私に会いに来てくれる。 もうお風呂にも入ったし、やる気のないスウェットで彼を待つ私は今年で21歳だ。 憧れていた都会の女とは大きくかけ離れているけれど、これが今の私。悪くない。 だけれど時たま、少し短めのワンピースにハイヒールを履いて、深夜に素敵なバーでグラスホッパーを飲む私に憧れていたり、憧れなかったり、もする。 「よし、由奈、寮監先生いなくなった!」 友達の合図とともにスウェットのまま寮を出る。 赤のジャージを大きなスポーツバッグに詰めて。 「ごめんね、また呼び出しちゃった」 「いつものことじゃん。3日に一回は呼び出される準備は出来てる」 彼はシンプルに優しい。 とても誠実で、そしてきっと私の事をとても好きでいてくれている。 決まって私たちの深夜デートは、スーパーで駄菓子を買って、それからコインゲームをしに、神戸のゲームセンターに立ち寄る。 いつも決まって、だ。 楽しいけれど、私はいつもコインゲームに疑問を持っていた。 どうして彼はコインゲームが好きなんだろう。 「ギャンブルする男の人ってあり得ないよね」 ……なんて私が言ったから? もちろんギャンブルをする男の人は嫌いだけれど、毎回お金にも、景品も出ないコインゲームで楽しめる彼は本当にすごいと思う。 たまにはちょっぴりおしゃれで、ピアノの生演奏があるバーにだって行ってみたいよ。 ……スウェットの私が言えることではないのかな。 私たちはいつも、深夜の2時まで遊んで彼のマンションに行く。 その時間彼の家族は寝静まっているから、息をひそめるように玄関から入って、ちょっぴり甘い時間を過ごして3時ごろに就寝する。 次の日は5時起きだ。 実質2時間しか寝ていないけれど、部活が終わって3時間ほど仮眠をとった。 そこまで朝は眠くない。
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