29(承前)

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 ジャクヤがいった。 「さすがに東園寺家のお嬢さまやね。ぼくなんかと覚悟が違う。ぼくはただ天童家に生まれた宿命から自由になりたいだけや。本土防衛決戦で呪術をつかい果たして、できることならもう一生あんな技はつかいとうないよ」  呪術戦で幼いころから同族同士で殺しあいをさせられてきた天童寂矢の悲痛な言葉だった。果たして自分が「須佐乃男」に半生をかける理由はなんなのだろう。ただ巻きこまれたのではなく、自分に納得できる確かな理由を見つけてから、タツオは本土防衛決戦に臨みたかった。そうでなければ、ほんとうに苦しくなったときに、自分の心が折れてしまう可能性があった。あの未知の技術を応用した決戦兵器を、どんなふうに運用するのだろうか。  タツオはそこには存在しないメンバーのことを考えていた。副指令がここにいたら、真っ先に話をきくのだが。けれど、菱川浄児はいまだ訓練中行方不明のままである。  タツオは天才の笑顔を胸に刻みながら、サイコの気位の高い鼻筋を見つめていた。あと本土防衛決戦までどれほどの時間が残されているのだろうか。
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