はじまり

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溝部春香は、そんな私に声を掛けてきた数少ない友人だった。しかし、私にはわかっていた。溝部春香のような、自分を可愛いと信じて止まない女がどうして私に声を掛けてきたか。溝部は、男も一緒に集まる場所には、常に私を誘った。所謂、私は、彼女の引き立て役なのだ。溝部はいかに自分を可愛く見せるかに、必死な女だった。だから、私は女の子同士で遊びに行く時には、あまりお誘いは受けなかった。 わかってはいたが、私に、それを断る勇気はなかった。今までの、苛められた苦い経験があるからだ。 もちろん、合コンなどというイベントには、必ずと言って声を掛けられた。引き立て役がいなければ、自分がお姫様になれないからだ。その日の合コンには、このキャンパスで「王子」と呼ばれる室上祐樹が来るということで、溝部は気合が入っていた。その合コンの時に、事件は起こったのだ。 したたか、アルコールが入って酔った勢いで、室上が私の隣に座ってきたのだ。 女の子の鋭い視線は、私に集まり、とりわけ溝部の視線は痛いほど突き刺さった。 突然、室上が、私の頬を両手で挟み、じっと見つめてきたのだ。 「ねえ、君って、痩せたら絶対に可愛いよね。」 そう酒臭い息を吹きかけながら私に言ったのだ。 室上にとっては、単なる冗談か、私の体型を揶揄しただけの言葉なのだろうが、女子達は心穏やかであるはずがない。皆、王子とお近づきになることを狙っているのだから。ましてや、王子に見つめられて、キスされるのではないかと思うほど顔を近づけられるなど。しかも、自分達が引き立て役に連れて来た私に対してだ。 その日から、怒涛のような嫌がらせの日々が始まった。     
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