はじまり

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はじまり

私は、室上祐樹が大嫌いだ。 ああ、それなのに、私は、なぜあいつのおかげでこんな目に遭っているのだろう。 「うちらの王子に近づこうなんて、十万年早いんだよ、このデブ!」 私は、そう罵声を浴びせられながら、トイレのドアに突き飛ばされた。 その拍子に私のポケットから自転車の鍵が零れ落ちた。 それを拾おうと手を伸ばすと、溝部に踏みつけられた。 「いたっ!」 私は情けなかった。高校まで、この体型と内向的な性格のためさんざん苛められてきた。 よもや、大学にきてまで、こんな理不尽な苛めに遭うなど、想像もできなかった。 あの日までは。 大学に入学した当初は順風満帆だった。 高校時代の友人とは、地元を離れたことでほぼ縁が切れた所為で、まったく新しい場所での人間関係は可もなく不可もなく、大学に入学する前にダイエットした甲斐もあって、少し太めくらいの見た目で、容姿や体型のことでからかいを受けることもなかった。 性格も、内向的な性格を少しだけ改善しようと、受けた誘いはなるべく断らずに行くことにしたが、これがまさか元凶になるとは思いもしなかった。     
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