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お笑い番組を一緒に見ていても、千晃は爆笑しない。
私が涙を浮かべて笑っていても、ただ隣に座っていて、気まぐれに私の頭をポンと撫でる。
泣ける映画を観て、私が号泣していても、千晃は涼しい顔をして私の顔にティッシュを押し付けてくる。
ああ、そういえば、私が何もないところで躓いて転びそうになった時は、小さく笑ったかもしれない。
普段は手を繋ぐことはないのに、その時は手を繋いでくれたっけ。
思い返せば、不器用な優しさを、こんな私にも向けてくれていた。
そんなことに気付いて、鼻の奥の方がツンとし、慌てて深呼吸をする。
仕事の合間。いくら昼休憩中とは言いえ、泣いた後の顔で職場に戻ることなんてできないし、何より何も話していない祐子に心配かけてしまう。
ふうっと息を吐いて、ズキズキする胸にそっと手を当てて、その痛みを逃がすよう努力してみる。
それはまったくの無駄になったが、ひとまず零れそうになった涙は引っ込んでくれた。
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