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食事を終えて、今度は映画館へと移動した。
隣に並んで座り、間に一つ珈琲を置く。
一つを二人で分け合うのが、私たちの暗黙のルールだった。
真っ暗になった館内。前からはカラフルな明かりが瞬くように私たちを照らす。
チラッと千晃の横顔を覗き見ると、相変わらず涼しい顔で真っ直ぐ前を向いていた。
激しい光の変化に千晃の顔が着色されて、いつもに比べて幻想的な印象を受ける。
真面目に観ているのか、ぼんやり観ているのか、何れにしても表情は変わらない。
これも最後。もう見られないのだ。
その事実に、きゅうっと心臓が締め付けられて、呼吸を忘れてしまった。
泣くな、泣くな。
鈍感なようで鋭い千晃に、不審に思われてしまう。
心が痛いと、どうして喉に何かを押し込まれたように苦しくなるのだろう。
その苦しさのせいなのか、心の痛みのせいなのか、よく分からない涙が私の隙を突いて溢れ落ちようとする。
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