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「懐かしいね」
「うん」
何も疑問に思っていない様子の千晃は、いつもよりも穏やかな表情をしている。
そういう顔をしてくれるということは、少しでも私と同じ気持ちがあったのかもしれない。
それだけで、もう充分だ。
満開の桜は風に吹かれても、花弁を散らせることなく、優雅に枝を揺らしている。
桜は散らないけど、私の想いは今この時を持って、散るのだ。
「千晃」
「うん?」
「今まで、ありがとう」
「……急にどうしたの」
穏やかな表情が一転して、眉間に皺を寄せた怪訝なものに変わり、桜の方へ向けていた身体を真っ直ぐ私の方へ向けた。
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