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桜が完全に散る。そんなある日の退勤後、オフィスビルを出たところで夢を見た。
ああ、白昼夢ってあるんだと思った。
「奈都」
居るはずのない千晃の姿と私の名前を呼ぶ声に、目が熱くなり、視界が滲む。
走ってきたのか、肩が上下し、スーツも着崩れている。
「奈都」
再び名前を呼ばれて、ぼんやりしていた頭が少しずつ動き始めた。
「なんで……?」
なぜ、千晃が私の会社の前にいるんだ。
あんなに勇気を振り絞って別れたというのに、これでは台無しじゃないか。
「バカな奈都を怒りにきたんだよ」
「バ、バカ……?」
初めて聞いた乱暴な言葉に、千晃を凝視してしまった。
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