本編

23/26
前へ
/26ページ
次へ
桜が完全に散る。そんなある日の退勤後、オフィスビルを出たところで夢を見た。 ああ、白昼夢ってあるんだと思った。 「奈都」 居るはずのない千晃の姿と私の名前を呼ぶ声に、目が熱くなり、視界が滲む。 走ってきたのか、肩が上下し、スーツも着崩れている。 「奈都」 再び名前を呼ばれて、ぼんやりしていた頭が少しずつ動き始めた。 「なんで……?」 なぜ、千晃が私の会社の前にいるんだ。 あんなに勇気を振り絞って別れたというのに、これでは台無しじゃないか。 「バカな奈都を怒りにきたんだよ」 「バ、バカ……?」 初めて聞いた乱暴な言葉に、千晃を凝視してしまった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加