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「え、絵里さんは」
「絵里さんは、兄さんの恋人だよ。あの二人、もうすぐ結婚するからね」
「でも、この前二人で」
「休日出勤した時に一緒になった時のこと? あれは偶然だし、そもそも義姉になる人としか見てない。いいかい、奈都。よく聞いて。僕は奈都を愛してるよ。僕の幸せには、奈都が必要なんだ。奈都がいるだけで、僕は世界一幸せになれるんだよ」
そう言って、千晃はぎゅっと私のことを抱き締める。
初めて言われた言葉に、ごちゃごちゃと考えていた理性は壊され、本能に直接響いた気がした。
気付けば、私の涙腺は崩壊し、声を上げて泣いていた。
「千晃が、好きなの」
「うん、僕も奈都が大好きだよ」
「傍にいていいの?」
「もちろん。これからも毎年、一緒に桜を見よう」
私たちの上にある木からは花弁が無くなっているけど、足元には薄桃色の綺麗な絨毯ができている。
桜の想い出が、今まで以上に大切なものへと塗り替えられた瞬間だった。
*終*
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