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「奈都、どうかした?」
そう声を掛けられて、ハッとした。
正面でランチプレートを食べている祐子が、ぼんやりしていた私の目の前で、手を振っていた。
「何でもないよ。春らしくなってきたから、眠いの」
本当は、別れの日を思って、眠ることができなくなっている。
「そう? あ、奈都は彼氏とお花見行く?」
「行くよ」
最後の花見に誘って、満開の桜の木の下で、お別れするんだ。
思えば、千晃は関心がなさそうにしていても、私がイベント好きだからと、合わせてくれていた。
花見だって、付き合ってくれた。
どんな時も、つまらなそうな顔を見たことはない。
楽しいのかは分かり辛い人なのだけど、それでも、嫌そうな顔は見たことがなかった。
私の前で祐子が花見弁当を作ることが面倒だと、文句を言いながら笑っているのを見て、千晃のあまり変わらない表情を思い出す。
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