第6章 崩壊する日常

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 そして、少し考えてから「彼女も探偵なんでしょ?自分で調べてるなんてこと、ない?」 「それはなんとも………」 「あなた、智樹君の妹が被害にあった事件の加害者を調べたりしなかった?」と、突然思い付いたような質問をされる。 「したよ。あみが連れてきたボーイフレンドの気の毒な身の上を聞いちまったんだから」 「そもそも、どうやって彼らは出会ったの?」 「智樹の妹をレイプから助けたのが、あみだったんだ」  俺の言葉に、佳純は両目を見開いた。 「……河川敷の暴行事件の犯人て、共犯?それとも単独?……どっちだろ?」  さすが現役刑事。勘が良い。  俺はあみがやったと確信していた。  泥臭く濡れた服をごみ袋に詰めていたあみを見た時、あまりにも顔が白かったから。声が掛けられなかった。  たまにうわ言で、あみは怯える子供のように泣き叫ぶことがある。  「お母さん、ミア、ごめんなさい」と。  だけど、一昨日の真夜中では違っていた。  ―――けいすけ、ともき、ごめんね―――  その違いに意味があるなら、あみは罪を犯したのだと。  *  助手席に佳純を乗せた俺は、旧高齢者施設で今は廃墟となった少し山に入った寂しい場所まで車を走らせた。救急車と消防車数台と、警察車両が何台も集まっていた。生存者2名、遺体1名。いずれも男性で若いらしい。オレンジ色のストレッチャーに乗せられて運ばれていた若者の顔を見て、俺は愕然とした。 「智樹!!」 「うそでしょ?」  薄目を開けてこちらを見た智樹は煤で黒くなった顔を歪ませる。喉を傷めたのか、声が出ないらしい。  「まさか、あみも一緒に居たのか?」  智樹は目を伏せて微かに頷いた。  佳純は、近くに居た刑事に声を掛け、女の子はいないのかと聞いたが「男性3名のみです。また火が消えてませんが、消防が建物内で女性を捜索しています」と答えた。  俺は思わず、消化中のその建物に向かって叫んだ。 「あみ―――――――――!!」
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