prologue

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 数時間後。新聞配達員がホンダプレスカブに乗りながら近道を走っていくと、見慣れないなにかが視界の隅に飛び込んできた。強烈な違和感を覚え、バイクを停めて様子を伺うと、雑木林の奥で人が倒れているのが見えた。季節柄、こんなところで寝てしまえば明け方の気温が零度近く下がると死の危険があるため、新聞配達員はゆっくりと倒れている人のそばに近付いていく。倒れていたのは男で、唇が真っ白く顔色も異常なほど青白い。両手を胸の上に重ね、まるで棺桶に入る死人のような姿に背筋を凍らせた。腰が抜けそうになりながらも気丈夫にバイクの元に戻ると、大急ぎで最寄りの交番に駆け込んだ。  通報を受けて駆け付けた警察官が見たものは、男の胸郭の下にあるはずのものがごっそりと綺麗に抜け落ちた、あまりにも綺麗な遺体だった。しかもそこには一本のカサブランカが添えられていた。  身元を特定する手掛かりは男の歯型と治療記録だった。彼はまだ未成年で、数日前両手の指を骨折していた。その特徴的な怪我のおかげで即座に身元が判明し、町中の防犯カメラによって彼を雑木林に誘い出して殺害した容疑者の女の映像から、容疑者もまた未成年であることが判明した。  女の名前は橘あみ。遺体発見現場から程近い廃墟のような家に一人住まいをし、長い間保護者不在で国籍のない少女と特定された。前日、同時に他三名の男の指を折り銃器によって頭部を撃つという凶行をしている容疑も上がっている。逃亡の可能性があるとされ現在は指名手配中となっている。
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